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浦和地方裁判所 平成6年(ワ)104号 判決 1995年12月12日

第一事件原告

宮内和夫

遠藤清

澤田博明

佐藤知行

須川幹司

第二事件原告

竹内次男

右原告ら訴訟代理人弁護士

畑仁

池本誠司

畑仁訴訟復代理人弁護士

綿引剛一

被告

私立レーシー国際幼稚舎こと

乙野二郎

右訴訟代理人弁護士

真木光夫

主文

一  被告は、

1  原告宮内和夫に対し金一三一万円、同遠藤清に対し金一三〇万円、同澤田博明に対し金一三〇万円、同佐藤知行に対し金一四八万五〇〇〇円、同須川幹司に対し金一三〇万円及び右各金員に対する平成五年五月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、

2  原告竹内次男に対し金一五六万円及び右金員に対する平成五年六月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、

支払え。

二  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告らの勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、

(一) 原告宮内和夫に対し金一五四万七〇〇〇円、同遠藤清に対し金一五四万二〇〇〇円、同澤田博明に対し金一五四万二〇〇〇円、同佐藤知行に対し金一七二万二〇〇〇円、同須川幹司に対し金一五四万二〇〇〇円及び右各金員に対する平成五年五月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、

(二) 原告竹内次男に対し金一八一万二〇〇〇円及び右金員に対する平成五年六月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、

支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、私立レーシー国際幼稚舎の名称により幼稚園(以下「被告幼稚舎」という)を経営しているものである。

2  原告らは、左記の経過を経て、被告との間で、それぞれの子供を平成五年四月より被告幼稚舎に入舎させる契約(以下「本件契約」という)を結び、左記のとおり学債・入学金等を支払った。

(一) 原告宮内和夫(次男和真・三才)

平成四年一〇月初め頃……入舎の説明

同年一〇月一一日……入舎試験

同年一〇月一二日……入舎許可

同年一〇月一六日……入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円納付

平成五年四月二日……授業料(四月分)三万五〇〇〇円、バス代(六か月分)一万二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一二四万七〇〇〇円)

(二) 原告遠藤清(長男光将・三才)

平成四年九月下旬頃……入舎の説明

同年一〇月四日……入舎試験

同年一〇月五日……入舎許可

同年一〇月二二日……入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円納付

平成五年四月二目……授業料(四月分、能力開発教室分)四万円、バス代(四月分)二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一二四万二〇〇〇円)

(三) 原告澤田博明(長男亮介・三才)

平成四年九月下旬頃……入舎の説明

同年一〇月四日……入舎試験

同年一〇月五日……入舎許可

同年一〇月七日……入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円納付

平成五年四月一二日……授業料(四月分、能力開発教室分)四万円、バス代(四月分)二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一二四万二〇〇〇円)

(四) 原告佐藤知行(長女真帆・三才)

平成四年九月下旬頃……入舎の説明

同年一〇月一〇日……入舎試験

同年一〇月一二日……入舎許可

同年一〇月一九日……入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円納付

平成五年四月五日……授業料(六か月分)二一万円、バス代(六か月分)一万二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一四二万二〇〇〇円)

(五) 原告須川幹司(三男和成・三才)

平成四年一〇月上旬頃……入舎の説明

同年一〇月一七日……入舎試験

同年一〇月一九日……入舎許可

同年一二月一〇日……入学金二〇万円納付

平成五年四月五日……学舎債一〇〇万円、授業料(四月分、能力開発教室分)四万円、バス代(四月分)二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一二四万二〇〇〇円)

(六) 原告竹内次男(長男宏・三才)

平成四年九月二六日……入舎の説明

同年一〇月四日……入舎試験

同年一〇月五日……入舎許可

同年一〇月七日……入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円納付

平成五年三月三一日……授業料(六か月分)三〇万円、バス代(六か月分)一万二〇〇〇円納付

(納付額の合計は、一五一万二〇〇〇円)

3  本件契約の締結に際し、被告は原告らに対し、要旨次のとおり独自の幼児教育を実施する旨約した。

(一) 外国人講師五名を置いて自然に英語に親しめるようにする(以下「①の点」という)。

(二) 通園バスの中にも、いつも外国人講師が乗り、英語で会話する(以下「②の点」という)。

(三) 午前中の基本科目は、従来の幼稚園に準じた教育をより高いレベルで行い、大学卒で保育者の資格を持つ先生が担当する(以下「③の点」という)。

(四) 午後の専門コースは、能力開発教室・英会話・ピアノ・テニス・バレエ・バイオリン・生け花など、希望者が一人でもいれば希望する専門教育を受けられ、スイミングを除いて四月の入舎時からすべて実施する(以下「④の点」という)。

(五) 各種教材や遊具は、すべて用意する(以下「⑤の点」という)。

(六) 給食は栄養士が計画的に献立を準備する(以下「⑥の点」という)。

(七) 今後、小学校から大学まで順次設立し、エスカレーター式に進学できるようにする(以下「⑦の点」という)。

(八) 中途退舎する場合は直ちに学舎債を返還する(以下「⑧の点」という)。

4(一)  ところが、平成五年四月一〇日の入舎式以降、カリキュラムもスタッフも諸設備も、到底前記説明にかかる幼児指導ができる状態ではなかった。すなわち、

(1) ①の点について

外国人講師は、準備段階では五名いるといわれており、入舎説明の際、一〜二名が立会っていたが、入舎式の時点では一名が在職するのみであった。なお、入舎式の頃、別の外国人一名がおり、講師として紹介されたが、実際に幼児指導を専門に担当する者ではなかった。

(2) ②の点について

通園のバスに外国人講師が乗ることは殆どないばかりか、四台のバスのうち一台は通常のワゴン車を臨時に使用するものであった。

(3) ③の点について

午前中の基本科目の講師の中には保育の資格を有しない者もおり、午後の専門科目の講師として就職した者が急遽午前中の基本科目の担当に回された者もいるなど、幼児教育の経験者がほとんどいない状態となった。しかも、入舎直後には、教育設備等の改善を要求していた職員五名を突然解雇し、まったく別の職員に入れ換えるなど、職員内部でも混乱状態にあった。また、三才児クラスに二才児が三、四人編入されたり、四才児クラスに五才児が編入されていた。

(4) ④の点について

午後の専門コースについては、幼児の希望が複数出ている教室についても開催されないものが幾つもあり、設備や講師がそもそも準備されていない状態であった。

(5) ⑤の点について

教材や遊具も入舎式の時点では殆ど揃えられておらず、その後一部設置されたものの極めて不十分であった。初めの頃は幼児の名札すら準備されていないため、カバンと帽子を常に持たせて名前を区別する始末だった。

(6) ⑥の点について

給食については、栄養士などおらず、被告が別に経営する日本料理店で簡単な弁当を作らせていた。

(7) ⑦の点について

小学校の開校についても、何ら具体的な手順が進められていない状況であった。

(二)  原告らを含む保護者有志は被告に対し、平成五年四月二二日、指導体制や諸設備の不備或いは幼稚舎の建物の安全性などについての現状と今後の方策を質問したが、被告からは、設備の導入や安全性の確保等について極めて不十分な回答しかなかった。

5  原告らは、被告幼稚舎における設備・指導体制の実情が、開園直後の一時的ないし些細な不備に止まるものではなく、被告において指導体制及び諸設備等を約旨に従って誠実に整備しようとする姿勢が欠落していたこと、しかも、開園の前後を通じて原告ら父兄及び職員からそれらの改善を求められていたにもかかわらず、被告は誠実にこれを改善しようとしなかったことから、改善の見込みはないものと判断し、原告竹内を除くその余の原告らは、平成五年四月三〇日、債務不履行を理由に本件契約を解除する旨被告に通告し、それぞれの子供を被告幼稚舎から退舎させ、原告竹内は、同年五月三一日、債務不履行を理由に本件契約を解除する旨被告に通告し、子供を被告幼稚舎から退舎させた。

6(一)  原告らは、それぞれの子供を被告幼稚舎に入園させたものの、被告のあまりにも杜撰な運営状況のため、四月三〇日(原告竹内を除くその余の原告ら)、或いは五月三一日(原告竹内)にそれぞれの子供を被告幼稚舎から退舎させ、他の幼稚園を急遽探して途中入園させざるを得なかったのであって、原告らは被告による被告幼稚舎の杜撰な運営によって精神的苦痛を被った。

(二)  右苦痛に対する慰謝料は原告一人当たり三〇万円とするのが相当である。

7  よって、被告は、

(一) 原告宮内和夫に対して入舎に伴って納付した諸費用と6項の慰謝料三〇万円の合計一五四万七〇〇〇円、同遠藤清に対して同じく合計一五四万二〇〇〇円、同澤田博明に対して同じく合計一五四万二〇〇〇円、同佐藤知行に対して同じく合計一七二万二〇〇〇円、同須川幹司に対して同じく合計一五四万二〇〇〇円及び右金員に対する原告らの子供がいずれも被告幼稚舎を退舎した後である平成五年五月一日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を、

(二) 原告竹内次男に対して同じく合計一八一万二〇〇〇円及び右各金員に対する子供が被告幼稚舎を退舎した後である平成五年六月一日から支払済みまで民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を、

求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の(一)ないし(三)、(五)ないし(七)の事実は認めるが、(四)及び(八)の事実は否認する。

3  同4(一)の事実について

(一) ①の点について

入舎説明の際、外国人講師が一〜二名立ち会っていたとの事実、及び入舎式のころ、別の外国人一人が加わっていたとの事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、準備段階で五名の外国人講師がいると説明したことはない。被告は、準備段階で外国人講師を五名予定していたが、それは当初園児募集予定数二二五名に対して予定されたものであって、開園時七八名の園児に対し二名の外国人で十分であるとの判断でスタートしたのである。

(二) ②の点について

四台のバスのうち一台は通常のワゴン車を臨時に使用するものであったとの事実は認めるが、その余の事実は否認する。

通園開始の平成五年四月一二日から外国人講師を通園バスに同乗させたところ、外国人に不慣れのため泣き出す児童もいて、殆どの児童が拒否反応を示した。その為、被告幼稚舎での生活に慣れるまで様子を見ることにして、一か月後から予定通り同乗させ、現在は全く支障なく毎日通園バスに同乗している。また、通園バスについては、開園時に自動車会社の都合で一台の納入が遅れた為、被告所有のワゴン車を一時使用したが、現在は四台が完備している。

(三) ③の点について

基本科目の講師の中に保育の資格を有しない者がいたとの事実及び三才児のクラスに二才児が三、四人編入されていたり、四才児のクラスに五才児が編入されていたとの事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告の目指す幼児教育の理念に基づき、講師には保育の資格を有するものだけでなく、教職資格を有する教職経験者を揃え、一般の幼稚園教育とは一線を画している。また、講師には幼児教育研究所の研修を受けさせ万全を期していた。開園間もなく教職員五名が退職したのは事実であるが、被告が各人と面談した結果、被告幼稚舎の教育方針に合わないとのことで全員自主退職したもので解雇したものではない。また、三才児のクラスに二才児を、四才児のクラスに五才児を編入したのは、幼児教育の研究課題として試みたもので、現在は、年齢別クラス編成となっている。

(四) ④の点について

すべて否認する。

開園と同時に開催が遅れた専門コースが若干あったが、幼児の希望コースは、全て開催され、現在、ピアノ、バレー、剣道、ゴルフ、テニス、コンピューター、能力開発、英語等の各コースが開催されている。

(五) ⑤の点について

遊具が入舎式の時点でほとんど揃っていなかったとの事実は認めるが、その余の事実は否認する。

被告幼稚舎は一般の幼稚園とその教育目的を異にするため、遊具は必要以上には揃えていない。その代わり、創意工夫して遊べるように広い芝生のコートを設置してある。

(六) ⑥の点について

認める。

当初、一般の給食より良いものをと考え、被告の経営する日本料理店で給食を作ったが、四月末頃から蕨市の幼稚園給食センターに委託して給食している。

(七) ⑦の点について

否認する。

被告は、小学校設立の為、既に用地を買収済みであり、埼玉県総務部学事課と小学校開設手続について折衝中である。

4  同4(二)の事実について

原告ら主張の日に、原告らを含む保護者から原告ら主張の質問があったことは認めるが、その余の事実は否認する。

被告は、長年の幼稚園経営の経験から、建物や設備の安全性は何よりも重要なことであると認識しており、被告幼稚舎の建物や設備は、その点について設計士や建築業者と十分打合せて建築・施工されたもので、何ら心配のないものである。

5  同5の事実中、原告竹内を除くその余の原告らの子供が平成五年四月三〇日に、原告竹内の子供が同年五月三一日それぞれ被告幼稚舎を退舎したこと、及び右各日に、原告らから本件契約を解除する旨の通知があったことは認めるが、その余の事実は争う。

6  同6の事実中、原告らの児童が被告の杜撰な運営状況の為退舎せざるを得なかったとの事実は否認し、その余の事実は不知。

三  抗弁

1  相殺

(一)(1) 原告らは他の父兄をむやみに不安に陥れるような言動をし、職員らに対しても被告幼稚舎の細かいことまで聞き出そうと勤務時間外に自宅まで電話を架けた。

(2) 原告らは、子供が退舎した後であるにもかかわらず、職員のことや、子供の在籍数を問い合わせたり、被告幼稚舎の運営や被告個人につき謂われのない中傷を繰り返し、職員の不安を煽り、被告と教職員との信頼関係を破壊したりした。

(二) 被告幼稚舎は特色ある幼稚舎として、地域周辺における信用保持が絶対に必要なところ、原告らの度重なる右(一)(1)、(2)等の行為によってその社会的信用は著しく傷つけられ、一〇〇〇万円を越える損害を被った。

(三) よって、被告は原告らに対し、右一〇〇〇万円の損害賠償請求権(債権)と被告が各原告らに対して負担する学舎債各一〇〇万円の返還債務とを対等額において相殺する。

2  返還期限の未到来

被告幼稚舎の平成五年度の募集要項記載のとおり、学舎債の返還の時期は原告らの子供の卒園予定日である平成八年三月末日であるから、未だ返還期限は到来していない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)及び(二)の事実は否認し、被告の損害及びその額は争う。

2  抗弁2の事実中、被告幼稚舎の平成五年度の募集要項において、学舎債の返還の時期が原告らの子供の卒園予定日である平成八年三月末日と記載されていたことは認める。

五  再抗弁(返還期日未到来の抗弁に対し)

被告は原告らに対し、募集要項の記載にかかわらず、原告らの子供が被告幼稚舎を退舎する場合は、どのような理由でも学舎債として預かった一〇〇万円は直ちに返還する旨約した。

六  再抗弁に対する認否

否認する。そのような約束をしたことはない。

第三  証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一1  請求原因1、2、3(一)ないし(三)、(五)ないし(七)の事実は当事者間に争いがなく、成立に争いない甲三号証、一〇号証ないし一六号証及び乙四号証並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、

(一)  被告幼稚舎は、平成五年四月に開園した幼稚園で、平成四年八月に募集要項や幼稚舎案内を作成し、ダイレクトメールの発送、入舎説明会の開催、自宅訪問による入舎説明等の方法により園児の募集活動を行い、その際、原告らに対し、(四)の事実(④の点)も明言していたこと、

(二)  右幼稚舎案内には、①の点に関して、「私たちと、楽しく頑張って学びましょう」と五名の外国人の写真と名前が紹介され、「国際的に」ということを教育目標に掲げ、被告幼稚舎の特徴として「国際感覚を身につけます……異文化に接することにより真の国際人を目指します」との説明が、また、基本科目中の語学学習について「遊びの中から楽しく英語を身につけます。外国人教師と遊んだり……」との説明や、④の点に関して、被告幼稚舎の特徴は、早期英才教育コース、有名私立小学校入学コース、在日アメリカンスクール/米国小学校入学コース、スポーツ教育コース、芸術・文化コースの五つのコースを設置し、午前中に全コース共通の基本科目(能力学習、体力学習、音楽学習、創作学習、語学学習、体験学習)を行い、午後には、子供たちが希望によって選択した専門科目(能力開発、習字、茶道、英語、エレクトーン、創作、ピアノ、絵画、ゴルフ、日本舞踊、バイオリン、テニス、剣道、柔道、サッカー、体育、空手、バレエ、野球、スイミングの二〇教室)を行うことを特徴としているとの説明が、⑥の点に関して、「完全給食です」との説明がなされていたこと、

(三)  原告らは、いずれも右(一)の説明や右(二)に記載された被告幼稚舎の教育方針や人的・物的施設に満足して、それぞれの子供を被告幼稚舎に入舎させることとし、入学金や学舎債等を納付して本件契約を締結したこと、

(四)  被告は、入舎試験、面接により入舎を許可した園児や父兄に対して、平成五年二月二七日に第一回オリエンテーション、同年三月二七日に第二回オリエンテーション、同年四月八日に一日入舎、同月一〇日に入舎式を行い、同月一二日から授業を開始したこと、

(五)  被告幼稚舎の当初の募集予定人員は各コース四五人(三歳児、四歳児、五歳児各一五人)、合計二二五人であったが、平成五年四月に入舎したのは七八人であったこと、

が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そして、請求原因5の事実中、原告竹内を除くその余の原告らが、平成五年四月三〇日、債務不履行を理由に本件契約を解除する旨被告に通告し、それぞれの子供を被告幼稚舎から退舎させ、原告竹内が、同年五月三一日、債務不履行を理由に本件契約を解除する旨被告に通告し、子供を被告幼稚舎から退舎させたことは、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告らが被告に対してなした債務不履行(不完全履行)を理由とする本件契約を解除する旨の意思表示の効力について検討する。

1  ③の点に関し、当初、三才児クラスに二才児を、四才児クラスに五才児を編入していたこと、及び⑥の点に関し、栄養士はおらず、被告が経営する日本料理店で弁当を作らせていたことは、いずれも当事者間に争いがない。

2  前掲甲三号証、一〇号証ないし一六号証、成立に争いのない甲五号証、一七号証の一、二、一八号証、一九号証、二一号証の一、二、証人竹内理恵の証言により真正に成立したものと認められる甲七号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、九号証及び二〇号証の一、二の書き込み部分、証人竹内の右証言並びに本件口頭弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  ①の点

入舎説明会等において、被告は、外国人講師は五名いると説明していたが、入舎式の時点では二名の外国人講師が在職するだけであった。

(二)  ②の点

通園のバスに外国人講師が乗ることは殆どなかった。

(三)  ③の点

午前中の基本科目の講師の中には保育の資格を有しない者もおり(このことは当事者間に争いがない)、午後の専門科目の講師として就職した者が急遽午前中の基本科目の担当に回された者もいるなど、幼児教育の経験者がほとんどいない状態であった。しかも、入舎直後の平成五年四月一六日には、教育設備等の改善を要求していた職員五名(基本科目を担当し、各コースの担任となっていた)が突然解雇されるという事態が発生し、専門コースの授業ばかりでなく、基本科目の授業も満足に行えない状況になってしまった。

(四)  ④の点

午後の専門コースについては、設備や講師が準備されていないことから、園児が希望した教室の幾つかは到底開催できる状況にはなかった。

(五)  ⑤の点

ピアノやオルガン等のほか、教材、滑り台やブランコ等の遊具も入舎式の時点では殆ど揃えられておらず(遊具が入舎式の時点で揃えられていなかったことは当事者間に争いがない)、その後一部設置されたものの極めて不十分であった。初めの頃は幼児の名札すら準備されていなかった。

(六)  ⑦の点

小学校の開校についても、何ら具体的な手続きはなされていなかった。

(七)(1)  平成五年四月二二日、被告幼稚舎において、父兄の要請による「父兄に対する説明会」が開催され(出席した父兄は六三人)、その席上において父兄から、父兄の有志が作成した「お伺い」と題する書面に基づいて、①三年後の小学校開校準備の進行状況、②二歳児と三歳児、四歳児と五歳児が同一クラスにいるが教育内容に無理が生じる心配はないか、③外国人のスタッフを見かけるが、語学学習や英語教室だけでも始められないか、④コースの決定を聞いていない父兄がいるので正式に発表して欲しい、⑤中止になったコースはあるのか、その理由は、募集時の説明会では、希望者が一人でもいれば教室は実施すると聞いているが、縮小した理由、⑥説明会では、遊び着、体操着に付ける名札を舎側で用意すると聞いているが、いまだに見受けられない、⑦担任の先生方の解雇に至った経緯を聞かせて欲しい、⑧現在の職員数(臨時職員・アルバイトを含む)及び氏名等を聞かせて欲しい、⑨階段に手すりをつける予定はあるか、⑩二階の吹き抜け棚にネットをつける予定はあるか、棚の強度は大丈夫か、⑪トイレの個室のドアを子供用に替えて欲しい、⑫図書室(本の冊数)、ピアノ、オルガン、スベリ台、ブランコ、砂場、遊具等の充実について聞かせて欲しい、⑬説明会では、厨房、コックを配置して手作りの給食をすると聞いているが、準備の進行具合を聞かせて欲しい、⑭現在のお弁当はいつまで続く予定か等の質問、要請、要望等がなされた。

(2) これに対し、被告は、

① 右①の質問に対し、口頭では「小学校は、学事課との話し合いで来年からにしたいと思っています。人数はたぶん三〇名位になると思いますが、三年後と皆さんに申しましたけれど、出来れば来年からやりたいと思っています」と、同月二九日付の保護者各位宛の「回答」と題する書面(以下「回答書」という)では「県の学事課の許可がおりしだい、開校するつもりでおります」と、

② 右②の質問に対し、口頭では「あくまでも私学なので、二歳児は今後の方針として今回は入れて、今、研究中です。五歳児は連休明けか六月ころには一クラスにするが、小学校へあがる為、集団生活が基本となるので、いずれ週のうち半分は年中組に入れるかもしれないが、基本的には一クラスと考えています。小学校にあがるときの集団生活を考えて今は年中組に入っています」と、回答書では「現在は一緒ですが、五月中旬から専門プログラムが始まると同時に年齢ごとにクラス分け致します」と、

③ 右③の質問に対し、口頭では「実は今日から始めようと思っていましたが、リチャードが今日は郵便局に行っているので、来週からリチャード、ジョン、それに女の人がもう一人来るので、三名で英語の環境づくりから英語を教えたいと思っています」、回答書では「説明会では四月の最終週から行いますとお答え致しましたが、ゴールデンウィークになるため五月六日の週から始めます」と、

④ 右④の質問に対し、口頭では「年長は、月曜日がピアノ、火曜日が能力開発、水曜日が絵画と芸術関係、木曜日が能力開発、金曜日がスイミングになっています」「年長さんだけは来週の初めに出します。年中、年少は五月の初めにお渡しします」、「五月七日から全員始まります」、回答書では「五月一〇日に発表致します」と、

⑤ 右⑤の質問に対し、回答書では「専門プログラムは希望者が一人でも行うつもりでおりましたが、プログラムによっては教師の方から三人以上との申し入れがありましたので、原則的に三人以上とさせていただくことをご了解頂きたいと思います。もし、二人以下の場合は理事長と直接お話する機会を設ける予定でございます」と、

⑥ 右⑥の質問に対し、口頭では「名札は今日から遊び着に付けていると思います」、回答書では「取付済みです」と、

⑦ 右⑦の質問に対し、解雇は話し合いです。というのは、午前中のプログラムができなかったこと、生活態度を指導できなかったことです」、回答書では「理事長としては解雇したつもりはありません、本舎の教育方針をどうしても受け入れてもらえないため、先生の交代を致しました」と、

⑧ 右⑧の質問に対し、口頭では「五月初めに書面でよろしいでしょうか」、回答書では「現在の教職員数は一二名です」と、

⑨ 右⑨の質問に対し、口頭では「手配してあります」、回答書では「取り付けます」と、

⑩ 右⑩の質問に対し、口頭では「予定はしていません」、回答書では「良い方法を検討中です」と、

⑪ 右⑪の質問に対し、口頭では「何なら替えるようにします」、回答書では「すぐ改善致します」と、

⑫ 右⑫の質問に対し、口頭では「本はもうすぐ来ると思います」「ピアノ、オルガン、楽器は揃っていると思います」「すべり台、ぶらんこも今週中に揃います」、回答書では「本はこれから揃えて行きます、ピアノはあります、すべり台等は設置中です」と、

⑬ 右⑬の質問に対し、口頭では「ここでは、コックをおいて給食はしません。他の設備で作って持ってくると言ったと思います」、回答書では「説明会でお話ししましたように、舎内では作っておりません」と、

⑭ 右⑭の質問に対し、口頭では「幼稚園給食センターも考えていますが、できれば子供の為にそっちの方がいいかなと考えています。そのへんは僕におまかせしてもらえれば有り難いです」と答え、回答書では「継続いたします」と、

答えていることが認められる。

3(一)  右2(一)ないし(六)の事実によれば、被告は、本件契約の締結に際して原告らに対して約束した①ないし⑦の各点を全て完全には履行していなかったものと認めるほかない。

被告は、①の点に関しては請求原因に対する認否3(一)記載のとおり、②の点に関しては同(二)記載のとおり、③の点に関しては同(三)記載のとおり、④の点に関しては同(四)記載のとおり、⑤の点に関しては同(五)記載のとおり、⑥の点に関しては同(六)記載のとおり、⑦の点に関しては同(七)記載のとおり主張するところ、本件記録を精査するも、右(四)及び(七)の主張に係る事実を認めるに足りる証拠はなく、右(一)ないし(三)、(五)及び(六)の主張は、いずれも当初の約束を履行できなかったことについての弁解に過ぎないのであって、右各主張はいずれも被告が原告らに約束した①ないし⑦の各点を履行しなかったこと、或いは履行できなかったことを正当化するものではない。

(二)  そして、原告らが他の父兄らとともに、①ないし⑦の各点を含む多くの点について被告に説明を求め、要請・要望をしたことは前記2(七)(1)において認定説示したとおりであって、右行為をもって被告に対する完全な履行の催告があったものと評価することができる。

(三)  更に、右2(七)(1)及び(2)の問答からすると、①ないし⑦の各点のうち、少なくとも①、②、④及び⑥の各点については、被告において直ちに当初の約束通り履行する意思はなく、⑦の点は履行の可能性がないことは平成五年四月二二日の会合における被告の説明から明らかであり、右会合が開催されるに至った事情を合わせ考慮すると、本件契約の解除権は右の時点において発生したものと認められる。

(四)  よって、原告らの被告に対する解除の意思表示が到達した平成五年四月三〇日(原告竹内を除くその余の原告ら)、或いは同年五月三一日(原告竹内)の時点で本件契約は解除されたものと認められる。

5  したがって、被告は各原告に対し、各原告から納付を受けた入学金、学舎債、授業料(能力開発教室分の授業料を含む)及びバス代を返還すべきところ、本件契約は、その性質から将来に向かって解消されるものと解されるので、各原告らが被告に納付した金額のうち、平成五年四月分の授業料及びバス代については、その返還を求めることはできないものと解するのが相当である。

三  慰謝料請求について

1  前記二1及び2の事実によれば、

(一)  被告は、入舎説明会の際に原告らに約束した①ないし⑦の点が入舎直後に実現することが出来ないことを知りながら、或いは不注意にもそうした状態にはならないものと軽信し、原告らに働きかけて本件契約を締結させたものと、

(二)  また、被告において当初の約束を完全に履行しなかったことによって、原告らをしてその子供達(いずれも三歳)を被告幼稚舎から退舎させ、他の幼稚園に入園させざるを得ない状態にしたこと、

が認められる。

2  そうした被告の行為によって原告らが精神的苦痛を被ったことは容易に推測し得るのであって、右苦痛を慰謝する為の慰謝料としては一〇万円が相当である。

四  抗弁について

1  抗弁1(相殺)について

(一)  被告が主張する抗弁1(一)(1)及び(2)の事実がそのとおりであるとしても、右事実をもって被告の社会的信用が害されたとは到底認められず、他に原告らが被告に損害を与えたとの事実を認めるに足りる証拠もない。

(二)  よって、被告の右抗弁は、その余の点について検討を加えるまでもなく理由がない。

2  抗弁2(返済期限未到来)

原告らが被告に納付した学舎債の返済期日が平成八年三月末日であることは当事者間に争いがないが、前記二4及び5で認定したとおり、本件契約は被告の債務不履行を理由に解除されたのであるから、右抗弁は主張自体失当というほかない。

五  以上によれば、その余の点について検討を加えるまでもなく、原告らの請求は、原告宮内和夫に対し一三一万円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、バス代一万円、慰謝料一〇万円)、同遠藤清に対し一三〇万円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、慰謝料一〇万円)、同澤田博明に対し一三〇万円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、慰謝料一〇万円)、同佐藤知行に対し一四八万五〇〇〇円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、授業料一七万五〇〇〇円、バス代一万円、慰謝料一〇万円)、同須川幹司に対し一三〇万円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、慰謝料一〇万円)及び右各金員に対する各原告の子供が被告幼稚舎を退舎した後である平成五年五月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で、また、原告竹内次男に対し一五六万円(入学金二〇万円、学舎債一〇〇万円、授業料二五万円、バス代一万円、慰謝料一〇万円)及び右金員に対する子供が被告幼稚舎を退舎した後である平成五年六月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条但し書き、仮執行の宣言について同法一九六条一項の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官川島貴志郎)

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